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鹿児島家庭裁判所 昭和59年(少)1423号 決定 1985年3月18日

少年 D・N(昭四四・一二・一一生)

主文

少年を教護院に送致する。

押収してある自転車の鍵一個(昭和六〇年押第三号の一)及び自転車一台(同号の二)を被害者不詳に還付する。

理由

(非行事実)

少年は、

第一  A、Bと共謀の上、昭和五八年五月三日午後三時ころ、鹿児島市○○町××番地××喫茶店「○○」店舗内において、C所有のカセットテープ、レコード等一四点(時価約六万六五〇〇円相当)を窃取した。

第二  Aと共謀の上、同年八月二七日午後二時五〇分ころ、同市○○町××番地××○○ビル四階一号室D子方居宅において、同人所有のステレオプレーヤー等三点(時価約一〇万円相当)を窃取した。

第三  Aと共謀の上、同年九月一二日午後九時ころ、同市○○町××番地××○△ビル一階スナック「○○○」入口において、E子所有の清涼飲料水等六点(時価約一万三八六〇円)を窃取した。

第四  Aと共謀の上、同年一一月六日ころの午後一一時三〇分ころ、前記○△ビル先路上の屋台から、F所有の現金約一万五〇〇〇円を窃取した。

第五  同月三〇日午後五時ころ、同市○○○町××番×号○○社出入口において、同社社長G管理のビデオデッキ一台(時価約一二万八〇〇〇円相当)を窃取した。

第六  Hと共謀の上、昭和五九年二月二二日午前二時ころ、同市○○町××番地××株式会社○○○○メンズショップ○○○店店舗内において、同社社長I管理の衣料品等二三点(時価合計約六万四六三〇円相当)を窃取した。

第七  Bと共謀の上、昭和五九年三月二四日午前四時一〇分ころ、同市○○○町○○番地×同市立○○小学校において、同校校長J管理の現金五六六円及び学用品一〇点(時価合計約一五〇〇円相当)を窃取した。

第八  同年五月八日午前一一時ころ、前記○△ビル内K子方居宅において、ステレオ一台(時価約一万円相当)を窃取した。

第九  同年七月二〇日午後九時ころ、同市○×丁目××番○公園北側隅において、被害者不詳所有の自転車一台(時価約一万円相当)を窃取した。

(法令の適用)

上記各所為は、いずれも刑法二三五条(第一ないし第四、第六及び第七の各所為については更に同法六〇条)にそれぞれ該当する。

(処遇の理由)

本件は、連続九件にも及ぶ万引、学校荒らし、侵入盗、自転車盗などの事案であつて(なお、少年は、上記第一ないし第五の各所為に及んだ際、いまだ一四歳未満であつたが、本件(昭和五九年少第一四二三号窃盗保護事件)送致時である昭和五九年八月二三日には、既に一四歳に達していたものであるから、このような場合家庭裁判所は都道府県知事または児童相談所長からの送致がなくても、これを審判に付することができるというべきである。)、その動機、手口、回数等非行の態様は悪質であるといわざるをえない。しかし、これらの各非行の多くは年長の共犯者に雷同した追従的非行であつて、現在これらの共犯者との交際は全く絶たれている上、少年の本件各非行に対する反省も顕著であり、上記第九の非行後今日まで非行がないことなどに鑑ると、現時点における再非行の可能性はさほど高くないと認められる。

少年の現時点における唯一ともいえる問題点は、慢性的な登校拒否状態であつて、一件記録によると、かような登校拒否は、小学校五年生のころから継続しており、その原因として、当時の級友からの暴力、これに対する担任教師の対応のまずさなどがその契機になつているものの、本質的には少年の年齢に比較してもなお未分化、未成熟で、優しく受容的に接してくれる者には信頼を寄せるが、厳しく突き放した態度で接してくる者には拒否的となるなど、欲求不満耐性が弱く、苦痛から逃避しようとのみ考えてしまうなどの資質上の問題点や、母子家庭で家庭環境が複雑であり、保護者の保護能力が低かつた点が認められる。

このような点を考慮すると、少年に対しては、ケースカウンセリングの充実による少年の指導、親子関係の調整を通じて少年を学校教育に適応させることが先決であつて、少年の非行性の除去を目的とした保護処分よりも、むしろこのような意味での児童福祉法上の措置が相当と考えるが、前記のとおり少年の登校拒否には根深いものがあり、かつ保護者の保護能力には多くを期待しえないことのほか、少年の調査・審判過程における行動傾向等に照らせば、在宅での指導は困難であり、開放施設ではあつても、集団生活の中での規律正しい生活を通じて学校教育に適応させる教護院での指導が相当と認められる。

なお、このような場合において、事件を少年法一八条一項に従い児童相談所長に送致することも考えられるが(送致を受けた児童相談所長は、児童福祉法二七条一項三号、三二条により少年を教護院に入所させる措置を執ることができる。)、家庭裁判所においてこのような判断に達した以上、端的に強制力を伴う少年法二四条一項二号による教護院送致決定をするべきである。

よつて、少年を教護院に送致することとし、押収物の被害者還付につき少年法一五条二項、刑事訴訟法三四七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 田中俊次)

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